超心理学とも呼ばれる超自然現象の研究だが,確かにユングなどは現実と精神の間に不思議な同調現象(シンクロニシティ)が見られるとして,これらを人間の無意識における一般的な現象であるとしている。
しかし,彼と師であるフロイトとの離反の最大の原因は,ユングがこういう超心理学的な事象をなんの疑いもなく最初から認めてしまったことにあるとも言われている。
ユングに限らず,超心理現象を信じ固執する人たちに共通するのは,その手の現象があるに違いないという先入観だろう。そしてその先入観が形成されるのは,極めて個人的な体験に基づく場合がほとんどである。
例えば,『遭難した夫の帰還を強く願う妻が,ある晩無事に夫が救出されて自分に手を振る夢を見た。そしてその直後本当に彼女の夫は救出され,夢の通りに手を振りながら帰ってきた』というエピソードが新聞などで紹介されたとしよう。
もともとそういう不思議なことがあるのだという先入観を持つ人にとって,これらの情報は,その先入観をさらに強化するに違いない。そしてこの手の情報は実際によく見聞きされる。
この記事自体が嘘である場合は論外だが,真実の報道であっても,この情報はヒトの持つ「基準比率の無視」の傾向によって,誤信を強化してしまうのである。
どこがおかしいのか?上記の例では,新聞記事になる妻の出現比率を考えて欲しい。一般に遭難した夫を心配し帰還を願わない妻は少ない。当然,無事帰還する夢を見ることも多いだろう。しかしそれら多くの妻のうち,極めて少数に属する「その夢が現実になった」妻のみが,珍しいが故に新聞記事になるのである。それ以外の,夢が現実とならず帰らぬ人となった大多数の妻の場合は,新聞記事にはならない。
科学的にシンクロニシティを完全に否定するには,今のところ情報が不足している。しかしながらヒトは生まれつき持つ認知的なゆがみのために,ありもしない現象があたかも一般的で頻繁に起こるように見えてしまう,すなわちでたらめな現象にも過剰にシンクロニシティを感じてしまうものなのだということは断定できる。
次回,血液型で性格判断のうそ
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